仙人の忘れ物
「 ほら、今 あんたも 通ってきたじゃろう 」
「 あぁ、 あの杉の大木ですか 」
「 うんうん、 あの木の根元に あったものじゃよ 」
痩せてはいるが 矍鑠 ( かくしゃく ) とした感じの老人が
白いものの多くなった髭をなでながら 柔和な表情を見せた。
私の手の中にあるものは
岩に苔むしたような 風情のある酒器 である。
「 いい肌をしているであろう? 苔が 生えているような ・・・
いや、実際 生えておったのじゃよ。
相当 長い間、あそこに 忘れられていたものと 見える 」
この 大きくも 深い森の 樹々や 岩の苔を
そのまま 映したような 不思議な 色合い。
「 わしが思うに、 この酒器は 多分
この森に棲む仙人が 酔って 忘れて行ったものじゃろうな 」
老人は 茶目っ気のある笑いを 浮かべ、そのぐい飲みで 酒を あおった。
私も つられて 酒を呑もうとして ふと思った。
その仙人とは 目の前にいる この老人ではないか、と。
いえ、これは 当然 作り話。
先月、某百貨店で行われていた 篠原希氏の個展に 出掛けてきた。
そして 昨年に引き続き 手に入れた酒器が これである。
詳しい説明は 避けるが
今回の器は 「 引出 」 と言う 手法なのだそうだ。
いつもながらに 素敵な作品が たくさんある中で
ひときわ 光を放っているような感じを 受けて
この酒器に 心を 奪われてしまった。
昨年の酒器 も そうだが
自然釉の美しさが 目を 惹く。
火で焼かなくては 決して 出せない魅力であり
「 焼き物 」 と言うに まさに ふさわしい作品である。
今回は 炎の動きや 灰の降り方を 予想しつつ 焼かれたとのこと。
今後 どのような器を 作られていくのか、
またの個展が ますます楽しみな 篠原氏である。
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コメント
お写真を拝見して、
篠原氏
(この方をゴン太は存知あげませんが)
の作品では?と、なんとなく感じるものがありましたなあ。
去年の篠原氏の記事から、もう1年以上ですか。
時が経つのは本当に早いですなあ。
お気に入りの作家さんの作品を
集めるのは楽しみですよなあ♪
ゴン太も昔、年に1度の展示会に数年通い、
作家さんのティーカップを集めた時期がありましてなあ。
ははは。
来年も素敵な作品を入手できると良いですなあ~。
投稿: ゴン太 | 2007年8月27日 (月) 10:45
こんにちは^^
一つ一つの作品に、物語があるなんて素敵です。
炎の動きや灰の降り方を予想するってことは、
単に窯に入れるのではなく、窯の中のどこに
どの作品を置くかまで考える必要があり、非常に
興味深いです。
そうやって、この道の魅力にはまっていくんでしょうね。
投稿: まっしろ | 2007年8月27日 (月) 16:34
>ゴン太さま
こんばんは。
おぉ、わかりましたか!
そうなんですょ、
あれからもう1年。
ご案内が来ていたので
楽しみにして 行ってまいりました。
毎度のことながら
それぞれの作品について
やさしく丁寧に ご説明いただきました。
作品に対する愛情が伝わってきて
是非その賜物を 手に入れたいと思ってしまうのです。
ティーカップを 集められていたのですね♪
気に入ったものをそばに置いておくと
心が豊かになるような気がしますよね (^-^)
>まっしろさま
こんばんは。
作品から感じられる物語は
きっと 人それぞれでしょうねw
花mameの場合は こんなお話が浮かんだのです。
篠原先生は 自作の穴窯で焼いていらっしゃるんです。
もう信楽で作陶されて10年以上とのこと。
まっしろさんがおっしゃられるように
場所による火の通り方などが
わかっていらっしゃるから 予想が立つのでしょうね (^-^)
ちなみに 電気窯でもモノによっては
違いが出てくることもあるんですよ♪
投稿: 花mame | 2007年8月29日 (水) 20:46